空間内の 3点と平面、物体の重心についての説明

ここでは、インシュレーターの悩みと真実 のコーナーで保留しておいた、空間内の 3点が平面を張るための条件と、物体の重心の時間変化についての解説をします。内容的には、オーディオとは直接関係のないことですので、興味のない方は、ご覧いただかなくても、差し支えがありません。

まず最初に、純粋に数学的には、

空間内に 3点があれば、それら 3点を通る平面が空間内に無条件で必ず定まる

 

という主張は、

 

間違っています。

ここは根拠を数学的に明白にしておきます。反例は、

3点が空間内の一直線上に並んでいる場合

 

です。(x, y, z) 座標で表せば、例えば A(1, 1, 1), B(2, 2, 2), C(3, 3, 3)の 3点が挙げられます。この場合は、それら 3点を通る平面は一通りには定まりません。数学的には無数の平面が、一直線上に並んだ 3点 A, B, C を通ります。無数に存在するのですから、『定まる』とは言えません。無数に存在していても『定まる』と言っていいならば、2点でも 1点でも平面は定まってしまいますし、そもそも点など与える必要はありません。したがって、例えば、

 

空間内の任意の 3点は平面を無条件で決めるから 3点支持は安定する

という主張は、論証としては

 

間違っています。

 

正しい理由を与えていないからです。実は、プロケーブル批判を行う人間の実力など、この程度ですので、みなさん、騙されないよう、厳重に注意してください。

 

ただ、このことはもちろん、以下に述べるような、インシュレーターによる点の位置の時間変化とは関係がありません。しかし、数学的条件としては注意しなくてはならないことです。したがって、以降はそれら 3点が常に一直線上に並んでいないように与えられているという条件の下で話を進めます。

 

3点についても『無条件』ではいけないのです。

次に、床の振動という外力を受けて、物体が振動している状態とは、静止した座標系における物体の位置や形が、時間経過とともに、刻一刻と変化している状態です。したがって、静止した座標系におけるその物体の質量分布も時間経過とともに刻一刻と変化しています。従って、その物体の、静止した座標系におけるの重心の位置や『平面の位置』も、数学的・力学的には、一般に、時間経過とともに、刻一刻と変化しています。重心については特に、

 

物体の重心の位置は、その物体の質量分布だけで決まります。

当然、質量分布が時間変化すれば、重心の位置も、一般には時間変化します。従って、たとえ 3点で支持していようとも、振動している機材の、静止した座標系における重心の位置は、一般には時間経過とともに刻一刻と変化しています。又、3点によって定まる平面についても、時間経過とともに、静止した座標系に対する平面の傾き具合や原点からの距離は、刻一刻と変化します。平面の場合は、スパイク型インシュレーター 3つであっても、インシュレーターを置く台やインシュレーターそのものが一般には振動していますから、3つのスパイクの先端の位置も、時間経過とともに、刻一刻と変化しているので、それら 3点で張られる平面の位置も、一般には時間経過とともに、刻一刻と変化しているのです。つまり、数学的立場で言うならば、時間経過を考慮すれば、平面は、一般には『ただ一通り』ではありません。

 

なお、平面の位置や時間変化について正確に、系統的に論ずるためには、グラスマン多様体の概念を商多様体という概念によって一般化した、幾何学的に専門的な概念が必要です。これは、オーディオのお店の記述としては過度に難しくなるため、ここでは一切割愛します。(どれほど難しい概念なのかを知りたい方は、『商多様体』という言葉について、N. Bourbaki 『数学原論』多様体 要約 1, 5.9.5 の記述を参照されてください。Springer 書店から、フランス語版も出版されています。『Éléments de mathématique: Variétés différentielles  et analyiques』です。この 5.9.5 には結論しか書いていないので、それがなぜ数学的に正しいのかを、ご自身で、数学的に厳格な証明を与えることに、チャレンジしてみてください。その難しさがわかると思います。)

上記では 3点支持についてのみ言及しましたが、実は、機材が振動している状況では、一般には、重心の位置や『平面の位置』が時間経過とともに刻一刻と変化してしまうということは、3点支持であろうが 4点支持であろうが、

 

支持する点の数には関係のないこと

であり、程度の差こそあれ事情は全く同じで、数学的・力学的にも証明できることです。但し、その数学的な証明を理解するためには、一般には、数学についての深い知識と、豊富な経験が必要となります。(数学に慣れた人にとっては、数式一本見ればすぐにわかることです。)

もちろん、物体が振動していても、重心の位置や『平面の位置』が時間経過とともに変化しないケースは、数学の理論的にはあり得ます。しかし、そのためには、物体の質量分布の時間変化について、数学的には非常に特殊な条件が満たされる必要があります。更に、その特殊な条件というのは、3点支持とか 4点支持とかの、支持する点の数とは、全く関係がないのです。そして、その特殊な条件を満たさない例は、数学的には、3点支持とか 4点支持とかに関係なく、理論的には無数に構成できるのです。

 

ちなみに、4点支持の場合に平面が一通りに定まるためには 3点の場合と同様、数学的条件が必要で、それら 4点によって張られる部分アフィン空間の次元がきっかり 2次元になることが必要十分です。もっともらしいものとしては、座標を用いた計算で、行列の階数による定式化もありますが、こう言ったことを含む議論も、一般の方たちにとっては難しくなるため、ここでは割愛します。

 

なお、数学的に厳密な立場で言えば、空間内の4点がある同一平面上に乗っていても、その平面がただ一通りに定まらない場合は存在します。xyz 座標空間で考えると、例えば、x-y 平面という同一平面の上に A(0, 0, 0), B(1, 0, 0), C(2, 0, 0), D(3, 0, 0) の 4点が乗っていますが、xyz 空間内で 4点 A, B, C, D を通る平面は、ただ一通りではありません。数学的には、『同一平面上に乗っている』の『同一』とは、『少なくとも一つ』の意味です。だからこそ、点の集まりが平面をただ一通りに決めるかどうかという議論は、一見自明に見えても、数学的には小うるさくなってしまうのです。

​最後に、3脚が安定するから直方体のアンプの 3点支持も安定するというデマについて、述べておきます。

結論を明白に言います。

カメラの 3脚と直方体のアンプの 3点支持は別物です

​直方体のアンプをスパイク型インシュレーターで 3点支持して真上から見ると、スパイクの頂点三つで張られる 3角形の外側に、アンプの長方形の面積の半分以上がはみ出ます。はみ出た部分には支えがまるでないから、不安定となります。

一方で、3脚によって支えられたカメラを真上から見ると、3脚の脚の先端の張る 3角形のど真ん中に、カメラが位置しており、しかも、その 3角形の 3つの頂点からカメラまで、3本の強靭な足で、がっちりと支えられています。だから 3脚のほうは安定します。

 

これが、たとえ 3脚であっても、3角形の外側に機材の半分以上が大きくはみ出るような、そんな大きな機材を、3脚のてっぺんに据えると、さすがに不安定になります。

そういう理由で、3脚と 3点支持はまるで異なるものです。それらに共通のものといえば、3という数字だけです。

  • b-facebook
  • Twitter Round
  • B-Pinterest